田中文照堂
「未来の名匠」申請作品の製作工程--
「未来の名匠」に認定された手彫り印鑑の製作工程をご紹介します。
1. 面訂(めんてい)、面すり
印材の彫刻面(印面)を完全な平面にします。平面度の高いガラス板に貼り付けたサンドペーパー(各番手)を使用しています。2. 朱打ち(しゅうち)
印面に朱墨を均一に塗ります。3. 字割り(じわり)
印面に、印稿を左右反転させて書き込む「ガイドライン」となる線を引きます。朱打ちした印面を、先の細いもので擦ると朱墨が変色し線が引けます。
この特性を利用しています。今回は密刻部がありますので、正確に印稿を再現できるように全面に1mmの方眼を描きました。
4. 印稿(いんこう)作成
印鑑の設計図となる印稿を書きます。小筆と墨のみで書いていきます。ここで描いた筆意(筆使い)や細部の描写が全て出来上がりに影響しますので、時間をかけて、念入りに、納得のいくまでの作業になります。
5. 字入れ、布字(ふじ)
印稿を左右反転させて、印面に直接小筆と墨で書きこんでいきます。頭のなかで左右反転させますので、とても難しい工程です。
文字には「直線」はなく、直線に見えても微妙に曲がっていたり、太さが違ったり、それが「味」になっています。その微妙な部分を左右反転させて再現するのは、習得するまでとても時間のかかる工程です。
6. 粗彫り(あらぼり)
各サイズの印刀(この印刀も手作りです)を使い、字入れの後の印面を彫っていきます。朱墨の残った部分を正確に、丁寧に彫っていきます。
特に細部は印刀の切れ具合が仕上がりに影響しますので、「彫る技術」はもちろん、「印刀を研ぐ技術」も必要になります。
7. 粗仕上げ(あらしあげ)
通常は「粗彫り→面擦り→墨打ち」と進みますが、田中文照堂では粗彫りの後に、仕上げに使用する「仕上げ刀」という印刀を用い、一度アウトラインを仕上げます。この後、面擦りの工程で印面にサンドペーパーをかけますので、不必要かと思われがちですが、この一手間が最終的な作品の「美しさ」に非常に重要になります。
8. 面擦り(めんすり)
粗仕上げ後の印面をサンドペーパーで再び磨き、印面を再び整えます。この工程で、朱打ちで打ち込んだ朱墨も削り落ち、印面は「素」の木肌に戻ります。
9. 墨打ち(すみうち)
8の面擦り工程で素の木肌に戻った印面に、今度は墨を打ち込みます。木肌のままでは彫刻したアウトラインが見えにくく、仕上げ工程をし易くするために必要です。
10. 艶出し(つやだし)
墨打ち後の印面を「イノシシの牙」で擦り磨くと、墨に光沢が出ます。墨の表面が均され、強度も増しますので、結果として印鑑の耐久性も上がります。
また朱肉の付き、離れもよくなり押印し易くなります。
通常は行なっていないお店がほとんどだと思います。
11. 仕上げ(しあげ)
仕上げ用の印刀、仕上げ刀を用いて、文字の輪郭、枠、図柄、印面全てのアウトラインを調整します。文字の筆意、流れ、表現がここで決まる、「0.0数ミリ」の調整になります。